「関西の陶芸展 亀井洋一郎展」藤 慶之,陶説,日本陶磁協会,2006年12月号


藤 慶之(美術評論家)

 一寸の狂いもない、規則正しい高層ビルを思わす構造体。磁器土を素材にしながら、焼成後のゆがみなど、どこを探しても見えない。やきものにまとい付く情緒や味を極力避けていながら、それでいて少しも冷たい感じはなく、知的な爽快感さえ漂ってくるのだ。

 作者の亀井洋一郎は大阪芸術大学、京都市立芸術大学の大学院を修了。その間、早くも朝日陶芸展や台湾国際陶芸ビエンナーレで受賞を重ねてきた陶芸界のホープ。それにしても、このような格子構造体は、どのようにして成形したのだろう。聞けば、まず一辺5センチの中空き立方体を、同一の石膏型鋳込み技法で多数作る。次に、それぞれ6面を、稜線部分だけ少し残して窓枠にくり抜く。こうして出来た数百個ものパーツを整然と積み重ね、内部に至るまで格子構造体の方形に仕上げて焼成したのだという。建築構造にも似た強靭な水平垂直の格子構造のうえ、パーツそのものが手あとの付かない鋳込みによる平均化のため、焼成段階での歪みや傷が生じないのだ。

 作品によっては、パーツの一面だけを窓なしにしたり、方形そのものの内部に空間を残すなどしているため、視線を変えることによって光の陰影が生じ、不思議な表情を見せてくれる。

 この独自技法を今後、どう展開させていくか。大いに期待を抱かせるホープだ。