「作家・作品解説/亀井洋一郎」
瀧上華(香川県立ミュージアム学芸員)
亀井は、2001年より「Lattice receptacle」というシリーズを継続して手掛けている。「lattice」とは格子体、「receptacle」は容器を意味する。磁土による一辺5cmの中空の立方体を一つの単位とし、それらを組み合わせた構造体として成立するこの一連の作品は、その組み合わせ方によって立方体や多面体といった形となる。精緻に構築された幾何学的な形態は、建築物を思わせる。また、基本単位の組み合わせによって形状が決定されるという仕組みは、分子構造のようでもある。
「Lattice receptacle」のシリーズは、陶磁器の生産で用いられる鋳込み技法を応用し、何度も実験を重ねた上で生み出した独自の技術体系で制作される。亀井は型成形の特徴である量産性を活かしながら、作品のフォルムを単純な構造体とすることにより、焼物の素材そのものを作品化することを目指したという。要素をそぎ落とすことで「土を焼く」という「焼物」の本質へと近づいているのだ。
亀井は「すべての空間は何かしらの容器であり、何かしらに満たされることで存在し得る」と語っている。格子体のユニットによる複合体は、置かれた空間と緊張感のある関係性を結んでいる。空間に置かれた作品に照射される光がつくり出す複雑な影もまた、亀井の作品を構成する一つの要素である。影は濃淡をつくりながら格子体の内部にまで及ぶ。影とは空間を満たすものであり、中空の構造体は「うつわ」としての「容器」なのである。青白磁の釉薬による淡い色調と滑らかな質感、そしてそこに射す光と影とが、作品と置かれた空間に静謐さをもたらしている。